台所の水漏れを「少し床が濡れるだけ」と甘く考えて放置してしまうと、後で取り返しのつかない事態を招くことがあります。水漏れそのものの修理費用だけでなく、それによって引き起こされる「二次被害」が、住まいと家族の健康に深刻なダメージを与えるからです。水漏れがもたらす最も身近で厄介な二次被害が、「カビ」の発生です。シンク下のキャビネットや床下など、普段は目が届かず、風通しの悪い場所で水漏れが起きると、その場所は常に高湿度の状態になります。このような環境はカビにとって絶好の繁殖場所です。最初は目に見えないカビの菌が、水分と木材などの栄養分を得て急速に増殖し、やがては黒や緑のコロニーとなって私たちの目に触れるようになります。発生したカビは、キャビネットの底板や床材を汚損し、不快なカビ臭をキッチンに充満させるだけではありません。より深刻なのは、健康への影響です。カビは、目に見えない無数の胞子を空気中に飛散させます。私たちがその胞子を吸い込むことで、アレルギー性鼻炎や気管支喘息、アトピー性皮膚炎といったアレルギー疾患を引き起こしたり、症状を悪化させたりする原因となるのです。特に、免疫力の低い小さなお子様や高齢者、もともとアレルギー体質の方がいる家庭では、その影響はより深刻になる可能性があります。また、カビの中には、シックハウス症候群の原因となる有害な揮発性有機化合物(VOC)を産生するものもあります。頭痛やめまい、吐き気といった原因不明の体調不良が、実はキッチンの見えない場所で繁殖したカビのせいだった、ということも十分に考えられるのです。台所の水漏れは、単に水が漏れるという物理的な現象に留まりません。それは、私たちの健康を静かに蝕むカビという見えない敵を育て上げる、温床となり得るのです。水漏れのサインに気づいたら、それは健康被害の始まりを防ぐための最後のチャンスかもしれません。
水漏れが引き起こすカビと健康被害の恐怖